「吉志部のむかし話」(合同編集委員会)
<釈迦ケ池の大蛇退治>
 
 むかしむかし、難波の吉師という豪族が村を治めていたころ釈迦ケ池には、恐ろしい大蛇が住み、
近づく村人たちに危害を加えておりました。吉師の長であった俊長は、村人の苦しみを見るにつけ
「なんとかして大蛇を退治しなければ」と思いました。
 そこで、村の神様である吉志部神社にお参りし「息子の俊守を大蛇退治に行かせます。どうぞ力
をお与え下さい」と一心にお願いしました。次の日も、次の日も俊長は二十一日間、武士として一
番大切な弓矢をお供えし、祈願を続けました。
 いよいよ二十一日目の満願の日です。りりしい若武者の
俊守は、弓と刀を持ち、釈迦ケ池に行き、じっと身をひそ
めて、今か今かと大蛇の出てくるの待ちつづけておりまし
た。一刻が過ぎ、二刻が過ぎました。しかし池の表面は
静かでいっこうに大蛇の現れるけはいがありません。
「あれだけお願したが、そのかいがなかったようだ。今日
は帰るとしよう」と池の中で足を洗い引き上げようとした
時です。小さい蛇がするすると近づき、かみつこうとしま
した。俊守は「えい!」とばかりに切りつけました。
 するとどうでしょう。にわかに池の水が真っ赤に染まり、
黒雲が舞いおり、みるみるうちに、一寸先も見えなくなりました。そして、波のように荒れ狂う
雲の間から、龍が顔を出し、牙をむき出し、俊守に襲いかかってきました。俊守は夢中で、龍の
目めがけ、矢を放ちました。それが見事命中したのです。
 すると、耳をつんざくような雷鳴と同時に滝のような、大雨がふりました。そしてこの雨は、
三日三晩降り続いたということです。
 四日目、池のほとりに立った村人の目にまるで何事もなかったような、静かな釈迦ケ池が映り
ました。
 大蛇は退治され、それからは平穏な日が続いたということです。 
今でも、吉志部神社の秋祭りの事を蛇祭というのもこうしたことから言うのかもしれません。
昔の釈迦ケ池は、現在の三倍もの大きさであったそうです。